COLUMN - 鎌倉の猫事情 その五

そんなこんなで、猫の暮しぶりも近頃ではずいぶん当世風になりました。 古いタイプの猫たち。そう、あの柄の悪い猫達・・耳はカギザギで、尻尾には古傷、 一番日当たりのいい屋根を陣取って、高いところから町の往来を見下ろし、 ぼってりとした体を投げ出してふてぶてしく昼寝をしてた猫。もう、今じゃめったに 見かけられないしろものです。人間だって、いまどきそんなのは流行りませんから ね。若い奴らを嚇して歩いていたやくざなおじさん達も町からすっかり消えてしまっ て、兄さんがたも、もっとずっと見た目はスマートです。そんなのは前時代的、今の ご時世には合いません。犬たちだってそうです。真っ黒な鼻の頭にぐっと皺をよせ て『ガルルルルル・・』なんて子犬を脅かす乱暴者の犬や、片っぽの耳が垂れて、 背中やお尻にハゲがある犬なんてこの界隈ではまず見かけません。そのかわりに ふさふさした巻き毛をさっそうとなびかせた、うっとりするような気品あふれる美しい 犬が、ご主人に引かれてゆうゆうとユニオンの前などを歩い ているのを見かけます。そんな素晴らしい犬に道で出会った りすれば、こっちが気後れしてしまって思わず道をゆずってし まいます。あの、かつて悪名高かったブルドッグだって、今日 みたいに薄寒い日には可愛いセーターなど着せてもらって さすがによく似合うとは言えませんが バスケットの 中で愛らしい目をパチクリさせて愛嬌をふりまいています。 十六年という長寿をまっとうしたミルクホールの愛猫のシュ ガーちゃんも、贔屓目に見ても少し古いタイプの猫でした。 きゃしゃな三毛トラ、人様からはなんて可愛い猫ちゃんかしら と言われていましたが、性格はガサツで、自由奔放といえば 聞こえはいいのですが、どうしてもノラネコ根性の消えない勝 手気ままな猫でした。体が小さくて喧嘩が強いとは言えず、 晩年は新参者のお隣のさば猫(背中が魚の鯖みたいな柄に なっている猫です)にまで馬鹿にされていましたっけ。 それというのも第一話でお話したように、界隈を取りしきってい たお向かいの白猫のにらみが利かなくなってしまったせいな のです。若いさば猫が毛を逆立てててシュガーを追い詰めて いるのを見てマスターはよくゴム管飛ばして脅かしていました。 ボス格だった白猫も、生意気なさば猫もどうしてしまったのか シュガーの死後見かけなくなってしまいました。 そして、シュガーちゃんが亡くなって一年後、ついにミルクホールにぐっと当世風のモダンな猫がやってきたのです。

to be continued

1999 Milk Hall Times 63th