COLUMN - 鎌倉の猫事情 その四


ミルクホールも古い木造家ですが、それもかなりオンボロの。先日つくづ くと眺めてみたら、家全体が焚き木みたいに見えて悲しくなってしまいましたが。 この辺りにはまだまだこういう木造の家が残っています。この木造家が少しまとま って建っているところが、猫にとって住みやすいかどうか重要なポイントです。 私が猫ならもらわれて行く前に是非チェックしておきたい点です。 あ、それに子供があまり多い家もいけません。昔から犬が住む家を決める時には 『その家は、お子様は何人ですか?』と聞き、猫は、『そこは、ガキは何人だ?』と 聞くらしいです。いや何も、猫が犬より柄が悪いとう話じゃなく、犬は子供と遊ぶのが好きだけど、猫は嫌なんです、子供みたいにチョコマカして五月蝿いのは。それにあいつらは尻尾をひっぱったり、足もって逆さに吊るしたり、滅茶苦茶しますからね。でもこの辺りも当世のご多分にもれず、子供は少なくなりました。昔は天皇家の別荘で 御用邸だったという、今も当時の立派な御門の残る、鎌倉の名門?御成小学校でも一学年のクラス数が激減しているという話です。 そうそう、現在御成小学校の通りを隔てて建っている高級スーパー紀ノ国屋の場所は、昔はテニス コートだったそうで、若き日の皇太子さまと美智子さまがテニスに興じられるお姿が見かけ られたとか。今紀ノ国屋に入ってみると、それは素晴らしい食材がズラリと並んでいます。 そりゃもう沢庵一つとったって違うんです、その辺の八百屋とは。一つ一つ値段を見て、 結局何も買えず、ため息ついて帰ってくるのがおちで。目の保養にたびたび来られちゃ お店も迷惑でしょうけどね。また話がそれてしまいましたが、とにかく猫の住環境にはボロ な木造家が固まって建っているというのが一番なんです。板塀にはたいてい裂け目があ ってくぐり抜けられますし、家そのもだって猫の通れる隙間だらけ。家と家の屋根や庇は 連らなってちょっとジャンプすれば家から家へ渡り歩くにはちょうど好いですから、猫道 はあらゆるところにできています。縁の下は、一年中じめじめとして、前足で引っ掻いて ウンチを埋めておくには最適な条件です。まあ、昔の家は猫のために設計されていたよう なものですね。ミルクホールの周りにも屋根つたいに歩いていかれる家がまだ何軒か残 っています。裏の家には 世間さまから見ればうちの方が裏なんですが 南向きの 居心地の良さそうな庇があります。その家は少し前まで『ほらふき村』という駄菓子屋さん でした。何でもおばあちゃんが昔駄菓子屋を営んでいたとかで、息子さんだかお孫さん だか、今のご主人がおばあちゃんの意志を継いで再開したものらしく、しばらくお店の前 は子供達が集まって遊んでいましたが、数年前、子供が少なくなったせいかどうか、 閉めてしまわれたのです。子供達はがっかりしたでしょうけど、猫はほっとした事でしょう。 そこのご主人は、見るからに穏やかな人柄な人物で、何か家全体も穏やかな空気が ありますから、不思議なものですね。そう言えば、そこの庇にいつも寝ていた茶色と白の ブチ猫もどこか穏やかな趣きの猫でした。

to be continued

1999 Milk Hall Times 62th