Cafe - good bye! Milk Hall NO.3




1980年、渋谷の公園通りの空き地に銀色のドームが出現しました。
それは鈴木清順監督の映画、「ツィゴイネルワイゼン」を上映する為のものでした。
特設映画館を作って各地で映画を上映して回るという日本映画の新しい形を目指すことで注目を集めるシネマ・プラセットの第一回作品で、最初の公開は東京タワーの駐車場に作られたドーム型特設劇場で行われました。
「ツィゴイネルワイゼン」は、「けんかえれじい」「刺青一代」などで知られる鈴木清順監督が描く摩訶不思議な映画作品です。4人の男女が、サラサーテ自ら演奏する「ツィゴイネルワイゼン」のレコードを取り巻く、妖艶な世界へと迷い込んでいく、内田百間原作の「サラサーテの盤」を脚色した映画でした。「ツィゴイネルワイゼン」はその上映方法のみならず、妖艶で不思議な映像美が当時大変な評判を呼び、1980年を華やかに彩るものとなりました。時代は大正の華やかなりし頃、鎌倉をロケ地に主演の原田芳雄・藤田敏八・大谷直子・大楠道代の4人の俳優を中心に物語は撮影されました。釈迦堂切通しの奥にある古い日本家屋の一室で、蓄音機から流れるヴァイオリンの音色から、物語は始まります。映画には大正時代の、滅び行く日本の様式美が全編に流れます。この映画が撮られたのは、ミルクホールが完成して3年目のことです。予算を節約する為、映画の殆どは鎌倉のロケで撮影していました。その為映画のスタッフは毎日のように鎌倉で仕事をしていたわけですが、たまたまスタッフの中にミルクホールを知る人がおり、スタッフミーティングの場所として利用していたのです。その折、「ここも、撮影したらいいんじゃない?」と、いうわけで、ミルクホールが撮影場所に選ばれたそうです。予定外だったというわけです。映画を見ると、もう30年も前の映像ですが、今と変わりないミルクホールが見られます。映画としても、傑作となりましたが、今では見られない当時の鎌倉の建築や景色が映像として残されていますし、私達もミルクホールの出発点の映像を今現在見られるという、貴重な恩恵に与りました。当時も今もミルクホールはちっとも変わっていません。時代が移り変わり、あんなに好きだった景色もなくなり、懐かしい人達もいつの間にかいなくなって行きます。それでも、ミルクホールは出発点と変わりません。あの時マスターが思い描いた、ミルクホールという名前の喫茶店が、今まだここにあります。

2010年 7月 ミルクホール再生へ

MILKHALL TIMES 158thでお話したように、今私達は決心しています。
ミルクホールにかけられた魔法をといて、現実の時間としっかり向き合う時が来たと。
朽ち落ちていく柱や、崩れ始めた壁を止めなくてはなりません。来年の7月より、ミルクホールは大改築を始めます。
そして、マスターが30余年前に、作ったミルクホールをもう一度、自分達の手で取り戻します。
いつまでも、いつまでも、喫茶店ミルクホールがここにあるために。
そして、2010年11月、ミルクホールはもう一度皆様と再開する予定です。
ミルクホールの30年の思い出と、未来への夢のお話は、また次号へ続きます。
2009 Milk Hall Times 160th